2013年4月3日水曜日

命のコストとペニシリン(博物館訪問記)


ロンドンには、実に様々な博物館がある。イギリスの博物館の一部については既に「イギリスにおける博物館・趣味関係のソサエティを考える」で言及したが、英国博物館協会によればイギリスには約2,500の博物館があるという。 開館日限定の小さな博物館も散見される。「漱石博物館(80b The Chase, London, SW4 0NG HPなどもそうであろう。今回は、ペニシリン発見者を顕彰する「Fleming Museum(英文リンク)」を訪問した。

こちらはフレミング博物館


1929年に細菌学者のフレミング(Alexander Fleming)によって偶然に発見されたものであるが、その後1940年にオックスフォード大学のチーム(オーストラリア人Howard Walter Florey とナチドイツからのユダヤ系(と博物館職員に確認済)亡命者Ernst Boris Chain)がこの発見を再評価し、工業生産に光筋が付き、さらにアメリカの薬事会社により大量生産が始まった。
結果的に連合軍側に効果的に使用された事(北アフリカ戦線やノルマンディ上陸作成)が、展示や紹介映像で強調されていた。前述の三人は1945年度のノーベル生理学・医学賞を受賞している。一方、日本でも第二次大戦中にドイツからの情報を通じて少量ながら生産に成功したが大量生産には至らなかったとのことだ※1。

重要な教訓は幾つかある。一つは、異なる分野の技術者達が一つの発見をもとに工業化までの光筋をつけた、今風に言えば学際間での分担と協業の重要性がある。 

いま一つは、「命のコスト」というアングロサクソン流の冷徹な観点である。 熟練した兵士達を失う事で長期での勝敗が決する事を何よりも恐れていた。ペニシリンの活用は、「コストダウン」と言う観点から重要であった(筆者は、人をモノ扱いすることには賛成しないが、彼ら流のロジックからすればこういった分析になる)

「人命重視」という個人尊重という観点もあろうが、国家運営上の観点では「取引」と見なしている一面もあるので注意が必要だ。それが証拠に「帝国戦争博物館(Imperial War Museum)」などに行くと各戦争の説明の最後に「Cost」という項目があり「戦費・人的・物的損失」が記載されている事がある。

その延長線上で、広島や長崎の原爆は「日本上陸での連合軍の被害(と日本側の被害)を最小限にするべく原爆を投下し降伏を決定づけた」と正当化しているのである。 
ロンドンに行くならば、この博物館を訪問して頂きたい。広島型原爆のコピーが置かれておりイギリス人の親子たちが屈託ない顔で記念撮影する姿を皆さんの目で確かめて欲しい

無論、記念写真を屈託なく取っていることを容認しているイギリスや最初に核のボタンを押したアメリカが、万が一、核攻撃や核テロを受けても同情はされないだろう。

彼ら流の論理で言えば、「剣を取る者は皆、剣で滅びる。」とマタイ伝(福音書26章52節)にあるのを承知でやっている訳だ。

 
帝国戦争博物館における広島型原爆のコピー
いずれにせよ、現時点での公式評価は、彼らにすれば「取引に競り勝った」ということなのだ。無論、そう考えない欧米の人たちがいるのも承知しているが、国家の公式見解は冷徹な「損得勘定」である。
日本人からすればショッキングな話であるが、これもまた現実。彼ら彼女達を説得或いは納得させなければ核兵器の恐怖をミニマイズできないだろう。京都に原爆を落とさなかった理由も費用対効果が合わなかったためであり、文化的遺産を守るためではなかった。
こうした「コスト」の観点で考えると、連合国側では「脱走推奨・捕虜尋問時にデタラメを話す(後方撹乱)」「闇雲な突撃の抑制(捕虜になっても次の戦いに参加できる可能性がある)」が推奨されていたことが納得できる。 個人主義という観点もあろうが、一人ひとりの将兵を育成するコストが多大なものであり、持久戦を継続するにあたって何よりも貴重な資源であるからだ。 
例え捕虜になっても脱走すれば、前線に割く勢力を一兵でも削ぐことが可能となり、敵国内の責任問題等を煽る事で団結を削ぐ事もできるから、一石二鳥である。
考えようによっては、戦闘で負けても「しぶとく生き残る」ことこそ長期の持久戦を戦い抜く「負けない生き方」なのかもしれない。ペニシリンの再評価・大量生産も、長期的に諦めなかった結果とも考えうる、
ペニシリンからは、「学際間の協業(横の連携)」「戦争(社会活動)におけるコスト」「しぶとく考え行動し続ける」という3つのアイデアを想起する事ができるのだが、日本にあってその点に於いて官民ともども徹底されているだろうか、と考えているところである。
歴史に興味ある学生だけでなく、自然科学、公衆衛生、あるいは医師過程に進んでいる諸兄諸姉にも是非、訪れてほしい場所である。なお、英国博物館協会や日本の博物館事情については宇仁義和氏のHPが判り易く、興味深い。
博物館では、案内役の職員(ボランティアかも)たちと雑談。質問すると色々と教えてくれる。 空腹を感じたので「Dinings」を再訪。「フォアグラ鰻丼」を食す。
フォアグラ鰻丼

米がちょっと堅かったが、フォアグラと鰻のコンビネーションは新鮮だった、サイドディッシュで天ぷら、味噌汁付なのは嬉しい。前回は天ぷらを食したが、これも新鮮な食材で質量ともにリーズナブル。日本人シェフが運営、現地スタッフは元気のいい接客だ。大通りから一本入った立地だが、地元のビジネスパーソンで繁盛している。コスパの良いランチタイムがお勧めだ(寿司メニューも充実しているが未食)。

Dinings (★★★★★)※他店の評価はこちら

22 Harcourt Street, London W1H 4HH, England (Marylebone)

020 7723 0666 http://dinings.co.uk/

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※1 「碧素・日本ペニシリン物語 (1978年 角田 房子 )」には戦時中に組織化された日本の国家的研究プロジェクトとしてのペニシリン研究が活写されているようなので帰国後、読了したい。
(2013/04/03記)

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