入寮して早い時期に、「大学創立記念式典」があるとのメールが寮生全員に送られ、ロンドン大学の各学生寮(幾つかある)別に参加者割当があり、出たい人は寮長に申し出よ、との事であった。アン王女(チャールズ皇太子の妹)が総長を務めており、式典に参加されるとの由。イギリス式の儀式がどんなものであるか興味があるので、早速申し込むと運良く出席できることが決まった。 ロンドン大学付属の学生寮に入った事で得られるメリットは、違うカレッジ・学校の学生たちと知り合う事だけでは無かった。
カフスボタンを日本から持ってきていなかったのでパディントンの駅ナカのお店で購入。ネクタイだけでなく、カフスまで売っているのあたりはイギリスのカルチャーか。
いざ当日、スーツを着てネクタイを締めると仕事をしていた頃を思いだす。スーツは現代の甲冑だ、と昔何かの雑誌で読んだが、職人技が冴える仕立てに袖を通すと、体を包み込むような安定感があり、気持ちまで引き締まるのだから確かにそうなのかもしれない。
寮の玄関横にロングのハマーリムジンが到着。思わず寮友と記念写真。
何かが起こりそうな予感!
実際は隣にあるホテルの送迎用(笑)とのことで、我々一行はタクシーに分乗し出かけた。
式典は大学本部がある建物で行われたが、入口ではアウトソース先の企業労組によるデモも開かれていた。疾病手当が無い事や経営の稚拙さを指摘しており待遇改善を訴えるものらしい。最初は「反王党派」じゃないか、等と勝手に想像したのだが、さすがにそうではなかった。
式典は定刻を過ぎ始まった。陸海空軍の将兵が総長、学校関係者を出迎え、入場(式典中は撮影禁止)。
固い式典を想像していたが、冒頭に、王女のスピーチがあり、名誉学位の授与が始まった、途中、演劇学科のジャズソングやちょっとドタバタ系の寸劇の披露をサンドイッチしや感じで進行。ジョークを効かせた名誉学位授与の紹介スピーチがあり笑い溢れるものであった。
映画「国王のスピーチ」にあるように、この国では、スピーチが重要な要素となっていると実感した(60年代にミニスカートを考案したMARY QUANT女史も名誉学位の授与対象であったが特に紹介がなかった)。
映画「国王のスピーチ」にあるように、この国では、スピーチが重要な要素となっていると実感した(60年代にミニスカートを考案したMARY QUANT女史も名誉学位の授与対象であったが特に紹介がなかった)。
式典の参加者は、寮生に限って言えば、国籍、学校、年代を検討しての結果とのことであった。日本人らしき夫婦を見かけたが教授だったのであろうか。同じ寮の女性が日本人であったほかは、アジア系は中国系か韓国系が多数を占めていたようだ。車いすでの参加者もおり、ダイバーシティを顕示する意味でも重要な要素なのであろう。
一方、参列した将兵は現役組だけでなく予備役組も選ばれていたようだ。どういう基準で選定されているのかは不明(卒業生なのかもしれない)ではあるが、彼らにとっても栄誉あることは間違いない。
そこで感じたのは、軍と市民との日常的な交流はいかにあるべきなのか、ということだ。
平時のイギリスでみたものは、一言で言えば、極めて自然なスタイルであった。
一方、日本の場合は、旧軍の威圧的な存在とその敗戦と言う結末が歴史的事実として残っている。それが故か、日常で自衛隊と市民との間に交流する機会は災害時を別とすれば、限定的に感じる。
ありていに言えば、旧軍は威張ったが結果が出せず敗北した。戦況報告において旧陸海軍の首脳(その一部)は国民のみならず最高指導者たる天皇陛下すらも騙していた。そして前線の将兵は間違った作戦指導のもと力尽きるまで戦い亡くなっていった。このあたりの経緯は
大本営参謀の情報戦記―情報なき国家の悲劇 (文春文庫)が詳しい。
学校での軍事教練では予備役軍人が子供たちに高圧的な姿勢で臨んでいたと聞く。原爆を始めとする戦略爆撃で多くの市民が犠牲となって、戦後の窮乏生活を強いられた。そして戦争指導を自ら裁く事が出来ず勝者の手に委ねざるを得なかった。これらのトラウマは、今でも日本の防衛政策決定に大きな影を及ぼしている。
大本営参謀の情報戦記―情報なき国家の悲劇 (文春文庫)が詳しい。
学校での軍事教練では予備役軍人が子供たちに高圧的な姿勢で臨んでいたと聞く。原爆を始めとする戦略爆撃で多くの市民が犠牲となって、戦後の窮乏生活を強いられた。そして戦争指導を自ら裁く事が出来ず勝者の手に委ねざるを得なかった。これらのトラウマは、今でも日本の防衛政策決定に大きな影を及ぼしている。
勿論、自衛隊は国内外で様々な交流を持っている。筆者は昔、米国ノーフォークに寄港した海上自衛隊練習艦隊のレセプションに招待された事があるが、アメリカ側の賓客を迎え、ミス・ノーフォークも参加していた、楽しいひと時であった事を覚えている。練習艦隊は、幹部候補生が候補生学校を卒業後、遠洋練習航海をおこなうものである。それは練習艦(TV-3508
かしま)を旗艦としたものであった。しかし、たまたま旅行先に友人の自衛官が駐在しており参加できたわけで、一般市民がだれでもアクセスできるわけではないだろう。
日常生活で接する事は、自衛隊基地のある町などを別とすれば、なかなか無いのではないか。東京で有れば朝霞(埼玉県和光市)にある陸上自衛隊広報センターに行けば色々な情報を入手できる(筆者は大震災前日に初訪問した)が、駅からもやや遠くに位置しており、諸国の軍事博物館のように都市の中心部に位置している訳ではない。例えばImperial War Museum (London)はかなり好立地に位置している。
それらがゆえに、有事の際に何が市民に起こるのか、自衛隊との関係はどうすればいいのか、という基本的な事項が共有されにくいのである。危険な任務についている訳であるから敬意を払わねばならないのは当然だが、手放しで賛美するのも危険視するのもおかしい。税金を投入する以上は効果的に運用されているか事実をチェックせねばならない。
例えば、
某国からミサイルが放たれた場合、一般市民はどうすべきなのか?
日本海側や島しょ部で観光していた折に不審な集団が上陸・銃撃してき
たらまずは警察に電話すべきなのか?自衛隊に市民が直接連絡すべきか?
某国で観光中に突如、軍事施設エリアに侵入したとして拘束されたらどうすべきなのか?(某国首都には、街中に軍事施設エリアがあるのを筆者も目撃した)。
また、万が一、隊内でクーデターが発生したらどうするのか、といったややもすれば誇大妄想的な事とて、政治家は考えておかねばなるまい(国防軍にするなら、なおさらだ)。
某国からミサイルが放たれた場合、一般市民はどうすべきなのか?
日本海側や島しょ部で観光していた折に不審な集団が上陸・銃撃してき
たらまずは警察に電話すべきなのか?自衛隊に市民が直接連絡すべきか?
某国で観光中に突如、軍事施設エリアに侵入したとして拘束されたらどうすべきなのか?(某国首都には、街中に軍事施設エリアがあるのを筆者も目撃した)。
また、万が一、隊内でクーデターが発生したらどうするのか、といったややもすれば誇大妄想的な事とて、政治家は考えておかねばなるまい(国防軍にするなら、なおさらだ)。
地震とは違う国難だが、こちらについては市民レベルで全く準備が整っていないといえる。周辺国では軍事力の近代化・強化が進展しているにも関わらず、だ。
もっと言えば、自国の防衛についてどれだけ、今の子供たちが知っているだろうか。例えば、一佐と一尉のどちらが指揮命令系統上、上位なのか、どの程度の規模の集団を率いる事が可能なのか等・・・・言えばきりが無い。
こういった事は、著者も残念ながらこの手の易しいQ&A集を見た事が無い。無論、学校でも習った事は無い。政治家の多くも、軍事的非常事態に対しての資質を持っていないのではないか。
今後は、否が応でも周辺事態の先鋭化に伴い、市民も軍事的素養を持たねば自国を守ることが出来なくなるであろうから、戦前の反省も生かしながら、市民による健全な統治(軍事力は手段であって目的ではない)を継続できるように考えていきたいものだ。
指導者たちの巧みなスピーチとジョークの応酬を目の当たりにして、イギリス軍人の颯爽とした姿を見ながら、著者はこんなことを考えていた(ちょっと考えすぎでしょうか???)。
そして、大学創立記念式典後のレセプションで、筆者は思いがけない経験をした(続く)。
例によって、リラックスした式典と違いピリ辛風の堅い結末になってしまったので、次回の予告も兼ねて
さてこれは何でしょう?(とても甘い気持ちになれます)