2013年2月25日月曜日

戦後も国外で戦闘を指揮した旧帝国陸軍将校

  オックスフォードでの語学留学でもそうだったが、留学生(特に社会人経験者)どうしで、各国の地理・歴史的背景についてお互いに話し合うことが多かった。 大学院生ともなれば、彼らの専攻に関わらず、自国事情・トピックに関してクリアに答えてくれる。逆に自国の事を自分の言葉で説明できるように日々情報をインプットしておく必要がある訳だ。 特に通説とそれ以外の論評の存在を加えると一目置かれるようになるようだ。 

  特に人口の面で小国と認識される国々においては自らのアイデンティティを明らかにしなければ埋没する。勢い自らの歴史認識に関してはシビアに説明してくれる事が多い。  

 また、深くなくとも、各国の地理・歴史を知っておくと、彼らの目の輝き方が違う様に感じる。 例えば「どこから来たの?」と聞けば国名を応えてくれるだろう。 そこで「XXから?」と、自分の知っている地名を挙げ出身地を聞いてみるのも楽しい。 例えば、ウクライナの女性になら 「首都のキエフ、それともクリミア半島?」などと聞けばその後の親近感が違ってくる(かもしれない)。 カザフスタンから来た兄ちゃんなら「アルマトイ、それとも首都のアスタナか」と聞けば、「ああこの人、自分たちの国に関心あるんだな」と話すきっかけになる。

   無論、近隣諸国であれば、より細かいトピックで話せるかもしれない。 多くの人が日本の事に関心を持ってくれている。若い世代はアニメの事はよく知っている。 これは商売上も有難いことであろうし、気楽にお互いの好みをシェアできそうな分野だ。 

   一方、自分たちがどれだけ近隣諸国の事を知っているのだろうか? 通俗的な事はともかく、歴史的な話になってくると心もとないと思うことがしばしばある。

   とりわけ、正式な国交がない中華民国(台湾)の場合は、渡航経験や仕事での関係がなければ、知らない事が多いかもしれない。 彼らは日本との関係を冷静に物事をとらえているように思える。 例えば、各大学のHPで沿革を見ると、たいてい日本統治時代についても淡々と言及されている。これは韓国や中国大陸ではありえない光景だ。 御高齢の方の中には日本統治時代に対する一種のノスタルジーを覚えている人もあると聞く。 李登輝元総統のように明確に日本統治時代を肯定的に発言するケースもある(無論、各個人の政治信条・時々の政治状況・思惑等によるだろうが)。
台湾の歴史を簡潔に知るためには、この解説が判りやすい(大阪産業大学でのレジュメのようです)。

   日本と中華民国(以下、台湾と表記)の関係については、前職の時代から時代から関心を持っていたのだが、 知らないことが多かった。 オックスフォードやロンドンで知り合う台湾出身の友人たちと付き合いが深まるにつれ、あれこれと調べることが多くなった。

   とても興味深い事実が多いが、 その中でも、この映像に描かれた事実は、多くの日本人や台湾の人々にとっても知られざるものだろう。 http://www.youtube.com/watch?v=RRYOmM-TlKo






    国共内戦で、日本人の元将軍(根本博)が軍事顧問として関与し金門島の戦闘で勝利に導き、台湾への本格的な侵攻計画を頓挫させた事が 再認識されている。 台湾側も長年、秘していた歴史であるが歴史の再評価に伴い、国防部の公式記録にその功績が載せられたということである。
   根本氏については、「この命、義に捧ぐ~台湾を救った陸軍中将根本博の奇跡~」 (門田隆将)が詳しい。 前職の時代に読破していたので、映像が記憶を補完してくれた。 中国語訳も最近出たとのことである。


  筆者自身も一般渡航の解禁後数年して金門島の戦跡を訪れた時にはまだ知らなかったことである。 交通手段が限られているようなので、タクシーをチャーターして島内を一周したが、島全体にトーチカや地下壕等が残っており、大陸との緊張関係を依然として感じさせたところである。


  根本将軍の他にも「白団」という軍事顧問団が台湾軍の教練に携わっていた。こちらは中村祐悦「新版 白団(パイダン)―台湾軍をつくった日本軍将校たち (芙蓉選書ピクシス)」が興味深い。

  これからも戦後秘史が解き明かされるかもしれない。 今後、近隣諸国との緊張・連携を考える上でも、 近現代史に関しての知識や各国での見解を把握しておくことは重要であろう。
  
  
  台湾というと、食い意地の張った筆者は、ついつい「台湾ラーメン」(台湾になく名古屋圏オリジナル)を連想する。これはさすがに食す事が出来ないが、またロンドンにラーメンの新店が登場ロンドン三越の地下という最高のロケーションで魚介だしのスープは上手い。店員のお姉さんも愛想が良い。「スパイシー味噌ラーメン」なんて言うメニューもあった。 「Ittenbari」の姉妹店と言う位置付けになるらしい。
三越ラーメンバー(★★★☆☆) ※他店の評価はこちら
14-20 lower regent street, london sw1y 4ph, u.k.
tel 020 7930 0317
  
   台湾と言えば高粱酒も旨い。金門島の高粱酒と並び、台湾が実効支配している馬祖島の「八八坑道高粱酒」という酒も旨い。こちらは防空壕を改装したトンネルで酒を熟成させているらしい。台湾の友人から土産で貰ったこの酒を嬉しい気持ちで飲んだ記憶がある。

(2013/02/24 記)

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2013年2月17日日曜日

「家康と按針」を観劇(英断がインカ帝国の二の舞を防いだ)


<今回は所謂「ネタばれ」有り>


演劇「家康と按針」ロンドン公演を見た。市村正親が家康を演じる他は、イギリス人俳優による三浦按針役を始めとして、日本とロンドンではキャストが少し異なっている(日本での公演実績はこちら)が、約3時間(休憩あり)の長丁場を飽きさせず観客を楽しませていた。多彩なキャストと歴史的考証と娯楽的要素を併せ持った素晴らしいパフォーマンスであった。日英の2か国語で演じられ、其々に対応した翻訳が字幕で流れる。こういった演劇は初見である。 

同行したSchool of Speech and Drama, University of London(演劇、演劇マネジメントや発声専門課程がある大学・大学院)の知人によれば、舞台での各キャストの発声タイミングが交錯している面は改善の余地があるとのことであった。一方、「戦国末期から江戸初期に於いて日本史と世界史の接点で描く」という視点が新鮮であったとのことであった。


筆者は、10数年ぶり・・入江加奈子バージョンの「ミス・サイゴン」以来・・に市村氏の出演劇を見て大いに楽しんだ。 氏の活躍は、続編が決まった「テルマエ・ロマエ」など映画でも縦横無尽に活躍しているのでご存じの向きも多いだろう。篠原涼子と結婚するなど、彼にとっては公私共に充実した時期ではないかと推察する。


今年は、1613年にイギリスの東インド会社が長崎・平戸に商館を開いてから400周年にあたり、各種行事が開催される。そのタイミングに合わせた日本での再演・イギリス初公演ということだ(2009年初演でDVDも発売済)。


スペイン・イギリス・オランダ・日本の国際的立ち位置と国内でのそれぞれの協力関係も比較的公平に描かれており、史実を細かく知らなくても大略は理解できる演出でもあった。三浦按針の漂着後、イギリスから通商交渉に来た鼻もちならない連中のデタラメさ加減に按針があきれ果てる辺りのリアリズムに徹した演出は判りやすい。古今東西、大枚そうであったのだろうと想像に難くない。

イギリスやオランダとて、国家レベルでは日本に敬意・好意を寄せた訳でなく、交易あるいは、スペインやポルトガルの国力を削ぐという文脈で徳川サイドに接近してきた事も事実であろう。


按針を神聖視している演出でもなかった。イギリスに妻子有る身で、ちゃっかり日本でも結婚(=キリスト教で許されない筈の重婚)してしまう按針の罪深さと苦悩にも劇は触れていた。一見ユーモラスに描きながらも冷ややかな視線を浴びせるのが、イギリス流かなとも感じる演出だ。


物語は、徳川家康と三浦按針の最後の友情を描き、家康没後のキリスト教への厳しい弾圧を暗示して終わる。


        観劇後、スペインとその潜在的協力者を根絶したがゆえに日本は植民地にならずに済んだ、という事に想いを馳せた。純真な気持ちで入信し散った殉教者には申し訳ないが、スペイン・ポルトガルの勢力を拡大させていれば、危うくインカ帝国になる所であった。多数を救った徳川幕府の功績は大きい


 スペイン、ポルトガルは、他人から略奪した資産を大部分、蕩尽した。その遺産で幾つかの優れた美術・建築が残されたのもまた事実であるが。享楽体質が抜けきれないのか、ドイツや厳しい自己改革を進めた旧東側諸国の幾つかの国からは「ギリシャ同様、政治・経済的なEUのガン細胞」と見なされている。


文明破壊者の末裔として、過去を自覚・反省していないのは、スペインで発行されていた最後の1000ペセタ紙幣に、コルテスやピサロの肖像画を使ってみたり、生誕地に今も彼らの銅像が出生地にあることで明らかである。 自分にはスペイン人の知人もおり、スペインワインも嫌いでは無いから、心情的にはこういった事を強くは言いたくない。無論、一人ひとりのスペイン人には罪がないが、歴史・対外経済へのインパクト等に対して、何も自覚なきまま時が過ぎれば「巨大文明の破壊民族の末裔たち」「欧州の二等市民」EU内外で認識されるのもやむをえまい。 


より大局に立てば、まさしく「原罪」であろうが、カトリック流に言えば改宗させた訳だから「善行」かもしれない(ゆえに反省も無い)。「文明破壊」はナチスのホロコーストと同様の話であるがゆえに、ペルー政府は今でもこういった銅像に対して不快の念を隠していない。もっとも生贄が大量に必要だった南米の諸文明が、他文明にとって受容可能かどうかは判断しかねるが。


スペインやポルトガルに比して、イギリスはよりしたたかである。「文明を積極的に破壊する事まではしないが、統治上、都合の悪いシステムは捨てさせる。植民地には余計な投資もせず既存のインフラやシステムを極力活用し搾取する」というのが植民地経営の基本スタンスである。 イギリス国内では平均的な食べ物が極度に不味かったり、バスの中でもメインストリートでも平気でゴミを路上に捨てたりする事を誰も咎めない。 移民社会イギリスでは、文化差に起因するであろう社会的課題は「教育・改善しようとしても無駄」と割り切っている。 植民地経営の伝統は現在のイギリス行政のさえなさ加減に通じるものがある。 「エネルギー補給の餌」という認識で作っているとしか思えない食物が堂々と高値で売られている事に関しては、個人的にはどうしても同意できないが、これも人民に対する搾取かもしれない(笑)。


ともかくも、徳川幕府は、イギリスと敵対するオランダのアドバイスも有り、イギリスとも断交した。その結果、アヘンに苦しみ強硬策に出たが実力が伴わず敗北した清帝国のような形にもならずに、日本は諸外国に対抗しうる内部蓄積を図ることが出来たともいえよう。 


オランダは布教せず貿易利益追求に専心したため、依然として情報収集の必要性を認識していた徳川幕府との利害が一致し国交継続した事はご案内の通り。その意味ではスペインからの独立を果たすも、イギリスやフランスに比して劣勢に立たされたオランダにとっては日本は安価に銀や伊万里焼の様な工芸品を調達できる有益な交易相手であったのであろう。江戸時代までの対日関係では、オランダが一番したたかであったといえようか。幸いにオランダからはアヘンの目立った流入は無かった。

現在、中国大陸ではアヘンや麻薬という薬物犯罪に対して貴賎・国籍の例外なく死刑を中心とした厳罰になるのはこういった歴史的背景を踏まえている。中国国内のロジックから言えば、過去決定的敗北を喫した原因については、同じ轍は踏まないように強硬策にでざるを得ないということであろう。国家と個人に信頼関係が起きえない社会構造であるがゆえ、力で抑えつけないと勝手な事を行う輩(国家の論理から見ての話だが)が輩出されるという負の循環に陥っている

他の事象でも平和的献策がいつのまにか強硬策を転換する事も多く、その結果が将来、彼の国の内部矛盾を激化させることにつながる可能性は高い。豊かな沿岸部は自分たちの利益を内陸に使う事をよしとしないであろうし、内陸部は自分達が革命を支えたはずなのに貧しいままで裏切られ続けているという思いを持っていると推測することも可能だ。


ソビエトやユーゴスラビアとは事情は異なるが、ばらばらの歴史を背負った地域と政府への信頼関係がない国家に於いて、かっての史実や武力やカリスマを主体に永遠に結合・統治できるとは考えにくい。中国大陸や朝鮮半島における、分裂・内戦による混乱のとばっちりは日本にも及ぶ事は明らかなので、その点についても頭の片隅に入れて、長期スパンでは日本国内の治安対策を考えておく必要はある。


いずれにせよ、負の歴史の教えるところはありていに言えば「人の道にもとる極端な事ばかりを行ってはお後が宜しくない」というシンプルな教訓である。バランスを取りながら、よき方向のスパイラルに一歩一歩歩んでいくスタンスを忘れないというのが、「烙印を押され続ける民族や決定的敗者にならない知恵」であるように思える。


      スペインやインカ帝国にならぬように精進せねばなるまい。滅ぼしても滅ぼされても良い結果にならない。


   また、江戸初期のバランス感覚に基づく外交決断やその後の情報収集政策等も大いに研究する余地がある。その意味で「日本史」「世界史」と分断して考えるのではなく、「世界の中の日本」「各国の国益追求の実態」というリアリズムに基づいた視点を忘れないことも重要だ。


   今回の劇は、二重三重に楽しめ、あちこちに考えを巡らせるヒントを得たという点においてはコストパフォーマンスもよかった、と言うことかもしれない。再演をされれば、是非見たい一作である。


      観劇前に食した日本居酒屋「灯」は中々、美味であった。地図を忘れてしまい道を間違えて、レストランに着くのが遅くなってしまったが、予約なしでも奇跡的に入ることが出来た。食べているそばからどんどん皿やグラスを下げる辺りの給仕のせわしなさには感心しなかったが、日本の生ビールに合うつまみが充実しており、マグロ納豆まであり、コメの炊き方を含め食べ物のレベルは高い。日本人スタッフもおり、繁盛しているようだ。 大通りの角地にあるので地図を持っていけば迷わないだろう。


 歴史だけでなく、食べ物関係の情報収集・判断も手を抜くことのなきよう精進したい。


Akari(灯) (★★★★☆) ※他店の評価はこちら

196 Essex Road London N1 8LZ
TEL: 020 7226 9943
http://www.akarilondon.co.uk


(2013/02/17記)




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2013年2月9日土曜日

Mind the gap! (ロンドンの自転車事情) 

  筆者は、交通政策・事情にも関心を持っており、各都市に行くと必ず地図を集め、可能な限りあらゆる交通手段を試してみることにしている。自転車もしかり。 時系列的に都市の交通網を比較すると、都市の歴史上の変遷・これからの方向性を理解するのにも役立つ。 可能であれば、交通博物館や車庫を訪問し、附属図書室で資料も見せてもらっていた。  

    ロンドンではご案内の通り、Tube(地下鉄)、2階建てのロンドンバス、黒塗りのロンドンタクシーが主たる交通機関だ。オーバーグラウンド(近距離列車)も走っているが、日本の様に相互乗り入れは出来ないので各ターミナルで乗り換える必要がある。DLRとよばれる無人交通システム(東京で言えば「ゆりかもめ」)がロンドン東部を走り、南部郊外には、低コストで建設できるトラムリンク(Tramlink)と呼ばれる路面電車も走っている。


    交通政策をもう少し俯瞰すると、渋滞緩和のための自動車乗り入れ制限・電気自動車の優遇が目につく。

    さらに各交通網を補完するものとして、自転車を明確に位置づけているのがロンドンの特色だ。

  寮友も大学の教授も自転車で学校に通勤・通学しているのを見かける。何故だろうか? 貸自転車らしき青い自転車も目につく。


今回はロンドンの交通政策における自転車の位置づけを考えてみたい。

最初に厳しいことを言えば、日本人の感覚から言うとロンドンで自転車を乗るのは決して快適ではない。なぜならば、基本的に車道、特にバスレーンを走らねばならず、ロンドンバスやタクシーに煽られながら走らねばならない。これは決して気持ちがいいものではない、自転車ゾーンが整備されているドイツから見れば地獄図絵だ。

日本でも規則上は車道を走る事になっているが、ロンドンの真似をすれば交通事故続出だろう。語学留学したオックスフォードも同様の状況で、語学教師の一人は自転車から転倒し怪我をしながらも教壇に立っていた。それでも人々はそれでも自転車に乗り続ける、何故だろうか。

ありていに言えば、自転車ユーザーにとって「時間が読める」「低コスト」という2つのメリットがある事に尽きる。

まず、道路は渋滞が激しい。 一般車はバスレーンに入ると罰金の対象(世界に誇る監視カメラ都市なのでバッチリ捕捉されるらしい)のだが、ラッシュ時はレーン自体がバスやタクシーで渋滞する。そしてバスは団子状態で連続してくることも有れば、待たねばならない事も多々ある(ダイヤは約XY分おきというアバウトな表現)。

 地下鉄においては、遅れや工事による運行停止は日常茶飯事であり、これまた時間が読めない。車内でアナウンスがあれば、ほぼ「この電車は(●●の都合)で止まった」という類の話だ。何故か、どのアナウンスもやたら申し訳なさそうな口調だ。もちろん駅で時刻表を見た事は無い。 

こうなってくると、自転車が一番機動的かつ、定時性のある交通手段になる。自分の脚力でおおよその時間は決まる訳で、ヘルメットをかぶり、視認性の高い黄色いジャケットを羽織って男女とも必死の形相で今日もロンドンの町を走っている。


一方で「低コスト」という観点ではどうか。

まず、公共機関は毎年値上げする。更新工事の為という大義名分はあるが、殊に地下鉄の値上げは激しい。サービス向上の意味合いは無いだろう。例えば、地下鉄はバリアフリー化を早々にあきらめてり、ホームと車両の段差は激しく「Mind the gap」とアナウンスが流れる。対してバスはほぼ100%低床車となっており役割分担をしている模様だ。

各種の交通機能改善プロジェクトは目白押しであるが、何気に中止になる案件もある。この点に関しては、東京都の開示の仕方の判りにくさよりは数段ましだろう。

いずれにせよ、「Mind the gap」「Sorry, xx minutes late」などという自虐ネタのロゴ入り土産物まである。地下鉄に関して言えば、乗客は、毎年のように上昇し続ける運賃と半ば脱力系の状態を受け入れるしかない。

その点、自分の所有している自転車なら、インフレーションは関係ない

また、ロンドンの大規模な貸自転車システムは注目に値する。バークレイズ銀行が広告権を獲得しており、ブルーの自転車をロンドンの町で見かけた事がある方も多いであろう(日本語での判りやすい解説記事はこちら)。これは2007年に話題をさらったパリのVélibのパクリで、2010年から導入した。他の計画と違い、オリンピックに間に合った貴重な成功例だろう。

いずれにせよ、これらは、日本の使いにくいレンタサイクルとは一線を画している。

  地下鉄のZone1区域内に500か所以上あるスタンドで借りて、別のスタンドに返すことも可能な仕組みで、地下鉄やバスで移動したあと、最終目的地の近くまで自転車に乗り換えるといった芸当も可能だ。

筆者も実際に乗って見たが、手元で操作できる3段切替ギアでタイミングに若干クセがあり、違和感を感じたほかは概ね快適。ハイドパークといった大規模な公園内には自転車専用レーンが設置されており、旨く使えばバスよりも早く目的地に着く事が可能だ。決済手段がIC付きのクレジットカードやデビットカードだけであるため、各ステーションには暗証番号入力用のパッドがある。最初は少し戸惑うが、手続き自体はいたって簡素だ。

課金体系は20132月現在で上記の写真の通りである。「Membership key」を入手しておくと、いちいち操作をする手間が省けるとのことだ(英語版の公式HPこちら)。30分以内にスタンドに返せばアクセスフィー以外はかからない。ちょっと近場を自転車で移動することが多いのであれば、年間のメンバーシップキー(90GBP)を入手しておけばかなり安価な移動手段と言える
残念ながらアクセスフィーは、2013年の正月から値上がりしており貸自転車の方はインフレとは無縁でないらしい。 


一方、日本の貸自転車はどうであろうか。例えば東京では、せいぜいが各区単位(世田谷区)での運営に留まるので用途が限定されてしまい、行政サイドの「環境問題に取り組んでます」「シルバー公社の雇用確保」といった自己満足色が強く、利用者の視点が弱い。それでも実践しているだけ世田谷区は「まし」だが。

メーミングライツでもよいし、違法駐輪から高額の罰金を取るなり各学校や鉄道運営企業にレンタルポートを義務付けるなりして、こういったレンタサイクルを整備するイニシャルコストのねん出という発想があってもよいように思える。無論、ランニングコストは受益者負担とすべきだが、手続きは簡素にしてほしいものだ。

日本の(交通)政策を見て痛感するのは、手ぬるい企画と総合的判断なき泥縄方式である。ロンドンも道が狭く命がけで自転車に乗らねばならないが、それが嫌ならバスに乗ればいいだろうという明確な代替案を行政は示している。学生のみならず、高齢者・失業者向けの交通機関割引といった施策もあり興味深い。

さらに突飛な話をすると、パリやロンドンで街中にある貸自転車のシステムは、これからの大規模「シェア時代」経済政策の予行演習の様な気もしている。勿論、スポンサー企業にとってはイメージアップという広告宣伝費、という割り切りも有るだろう。が、所有でなく利用に課金する「寺銭」ビジネスのバリエーションなのかもしれない。 さらにこの貸自転車のシステムの成功を受けてパリではAutolibなる電気自動車のカーシェアリングが公道上の一部を使用してサービスを始めているらしい。日本でもカーシェアリングが流行の兆しを見せているが、サービスの提供方法が各社ばらばらで統一仕様でない事が普及のネックになるだろう。

いずれにせよ、「シェア時代」の自転車行政に果敢に挑むパリやロンドンの取り組みは今後も注して見たいと思う。一つ一つの技術や結果が大したことが無くても、緩く横にラッピングして「良さそうなシステム」に仕立てあげるのが上手いのが、ヨーロッパ諸国やアメリカのやり方であろう。 対して日本は個別項目はとても良くできているが、これらを統合しての「売り物」にする事例が少ない。 「iPhone」 と 「walkman」、「一太郎」と「MS-office」・・・過去の事例から思いあたる比較は色々あるだろう。

日本発で世界に広められるような、シェアベースの課金システムが出来ると将来の食いぶちにつながっていくのだが・・・・どうであろうか。
 
          これまでみたように、自転車一つ見ても、各国の政策の違いが見てとれて興味深い。ロンドンでは命がけだが、定時性とローコストという観点で今後も、自転車の使用を交通システムに取り込んでいくであろう。

なお、個人所有の自転車の場合は盗難が多いので、前後のタイヤも取られない様に施錠する必要がある。折りたたみの自転車も多く、大学の教室内に自転車を持ち込む人も見かけるから本当に盗難が多いのだろう。学生寮でも共用冷蔵庫からラム酒が盗まれたり、共用のコインランドリーから女性の下着が盗まれたりするので、まったく油断ならない国である。スタンド間を移動する貸自転車ならば盗難に関わるトラブルもほぼ無いと想定できる(しかし、一度路上に乗り捨ててあった貸自転車を見た事があるからゼロでは無い)。









  いずれにせよ、ロンドンで自転車を乗る際は、車道で転倒した際のリスクミニマイズを図る事や盗難対策は良く考えておく必要がある。具体的にいえば、肌の露出を抑えヘルメットを用意する、丈夫な鍵を用意するといった類のことだ。




よく見ると自転車のかごにLoveという文字が・・・ドライバーに愛ある運転を促しているのだろうか・・・そういえば、「Mind the gap」と書かれたTubeのロゴマーク入りTシャツを着た自転車青年がロンドンバスに思い切り煽られたのも見かけた。殆ど間隔(gap)をあけずに迫ってくるのだ・・・


なかなか他人に思いを伝えるのは難しい。


ああ、Mind the gap....
(2013/2/9記)

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2013年2月1日金曜日

大学院選定する優先順位・・・・ ロマンとそろばん


年末年始にかけて、5000ワードのエッセイを2本書きあげた。年末は風邪で数日ダウンしたので、元旦も血眼になって作業を進めた。モジュール評価の全て、100%の可否がこれらにかかっているのでこちらも必死だ。丁度、去年の年末年始は、大学院選定に明け暮れていたので、毎年、元旦はせわしいスタートになっている。

今回は、イギリスで大学院を選定する優先順位について考える。一言で言えば、「ロマンとそろばん」のバランスが重要ということに尽きる。筆者は日本国内の大学の経済学部卒業、企業では経理のマネージャを経験して、歴史の大学院に通っている。よって、後進の方々すべてに当てはまる訳ではない事を最初にお断りしておく。

入る前から、出口を想定しておくことが重要である。就社・就職に直結しているのであればなおさらのこと(筆者は、当面は直結しない可能性もあるがゆえに、MBAや法律系等、実務直結型の進路後のキャリアパスとの関係は断言できない。他情報源を確認してほしい)。

ここでは、卒業という狭義の出口を見据えて考えたい。

筆者は大学院の選定は「自分の関心事、教授陣、卒業できる可能性、自分の語学力、立地」という優先順位で行った。

コース(専攻)・モジュール(ゼミ・レクチャー等)によってクリアすべき評価基準が違うので「大学院」あるいは「修士」卒をひとくくりに出来ないから、候補となるコースを幾つかピックアップし、自分なりに入学条件や関心ある事項をマトリックス(表)にして、優先順位を考えていくべきであろう。

選定における意味合いを次に述べる。

最優先事項としては、自分がどれだけ関心事にのめりこめるか、という事につきる。英語力を含む劣後要件をカバーしようという戦術だ。例えソーシャルな会話が稚拙であっても専門分野での知識と語彙は増やしていく等の割切りが必要。 フルタイムの場合は、1年しかないので、関心の無い分野も取らざるをえないようなコースは避け、卒業の可能性を高めておくのが肝要だと思う。歴史で言えば、中世・古代史に興味が無いならば「歴史学」といった広いテーマのコースは避け「近現代史」のコースを選ぶといった事だろう。

次に重要なのは教授陣であるが、教授自体が異動したり休学することもあるから、複数の教授を考えておく必要がある。志望動機書(Personal statement)で「この教授のXXのモジュールを取りたい」とアピールして合格率を上げる意味でも、「自分の関心事+教授」の情報収集は重要だろう。

第三に、卒業要件は、各種各様なので複数の学校で迷った場合には、この差のチェックも必要だ。私の属するコースは、各モジュールとも100%論文が評価対象。毎週のゼミにおけるプレゼンは任意だが、90%の生徒が何らかの形で発表することになる。が、直接の評価対象にはなっていない。結果的に論文一発勝負、ということになる。評価の対象にならない試験やエッセイを課されるコースもあると聞いている。
 一般に、国際商法、ビジネス系の科目は、試験+エッセイ+プレゼン、そして卒論という構成になっているようであり、地域研究のコースの場合は、関係する専門分野モジュール+現地語学モジュールという組み合わせケースが多い。英語スキルが厳しい上に新言語、というのは現実的でないと判断し、こういったコースは回避した。必要であれば、大学院生向けの語学コース等をオプション(追加料金)で受けることにすれば、卒業要件にならず、自分のペースで学べるだろう。

語学力については、IELTS(TOFEL)次第だが、公式HPに載っている足切り条件以下であってもチャンスはある。筆者について言えば、条件付きオファーにおけるIETLSスコアは、公式HP以下のスコアが提示されて来た。英国ビザの体系では高等教育を受ける資格を所与する下限スコアを提示しているだけで、後は各学校が独自で判断し、必要な英語力を持っているかどうかの他に、他の要件(志望動機書・推薦状・大学の成績)を勘案して条件付きオファーを提示している模様だ。筆者はスカイプでの面接もあったので、出来る限り自分をアピールした点も評価されたのかもしれない。 日本で喧伝されている「ランク」上位校からのオファーが出ても、「ランク」下位校とされているところからオファーがもらえない、というケースが複数あった。
 
    正直なところ、IELTS6.5であろう7.0であろうが、あくまでも入国審査の入り口に過ぎず大学院の授業や討論(特にネイティブ主体)であると相当に厳しいのが実感。入学決定後もガンガン英語をブラッシュアップすべきだと考える。
 

最後に立地だが、歴史を研究する大学院生にとって重要なのは、一次資料や二次資料に気軽にアクセスできる環境と考える。大英図書館や国立公文書館(ナショナルアーカイブス)のオンラインカタログは充実しているが、現物はやはり現地に行く必要があるからだ。図書館については、オンラインの各種ジャーナルへのアクセスは当然として、各カレッジの図書館だけでなくSeneta-houseと呼ばれるロンドン大学共通の図書館も、専攻によっては無償で使用できるから、全ての書籍を買い入れる必要はないだろう。加えて、ロンドンでは、常に各分野のイベントが何かしら開かれており、カレッジを超えて気軽に参加できる、ということにある。

     

   なお、「留学フェア」と称するイベントが盛んだが、ここに来る大学の代表者は、セールスパーソンなので注意が必要だ。「ヨーロッパの現代史」を大学院で学べるかと問うても、「歴史のコースは有るわよ」といって学部のカタログを渡してくるような大学もあるから、要注意だ。カタログは豪華に作られ、ゴルフ場やリゾート地広告と見まがうような豪華な写真を載せているケースも多々ある。3年間毎日過ごす、学部生ならいざ知らず、院生にとっては、知のインフラがどの程度整っているかがこそが最重要であるから、外観だけに惑わされてはいけない。イギリスの大学はほぼ国営とはいえ、完全に独立採算制。専門のセールス部隊を持ち、各国で青田買い活動を展開している。企業と一緒で、優秀な人材を確保・実績をあげれば大学の名声があがり、財政基盤が安定・投資という好循環を現出できるからだ。

 

       筆者は11月から学校選定を始め、2月に願書提出、3月に複数校からの条件付き入学許可が出てきた。最終的に6月のILETSの結果で今の学校に決めたが、もう少し早いうちから始め、イギリスでプレセッショナルを受けられるようにしておくのがよいと考える。EU圏の学生達はもう少しお気楽なようで、期限ぎりぎりに申し込んできているものもいたようだ。

  いずれにせよ、ロマン(やりたい・やるべき)とそろばん(やれそう)のバランスを考え、後進の諸兄諸姉が成就する事を祈願します。

               
 
  街で見かけた「Great Food」なるパブのコマーシャル。「Great」だの「Special」と書いてあれば、平均、あるいはそれ以下のものが供されるのがイギリス流。物価が毎年上がる分だけ、賛辞する言葉も、インフレ気味である。 この手の看板が出ていないパブをお薦めする。本当に旨い店は洋の東西を問わず、べたべたと広告など打たないのが世の常である。パブも大学もセールストークには要注意。

(2013/2/1記)
               
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