<今回は所謂「ネタばれ」有り>
演劇「家康と按針」ロンドン公演を見た。市村正親が家康を演じる他は、イギリス人俳優による三浦按針役を始めとして、日本とロンドンではキャストが少し異なっている(日本での公演実績はこちら)が、約3時間(休憩あり)の長丁場を飽きさせず観客を楽しませていた。多彩なキャストと歴史的考証と娯楽的要素を併せ持った素晴らしいパフォーマンスであった。日英の2か国語で演じられ、其々に対応した翻訳が字幕で流れる。こういった演劇は初見である。
同行したSchool of Speech and Drama, University of London(演劇、演劇マネジメントや発声専門課程がある大学・大学院)の知人によれば、舞台での各キャストの発声タイミングが交錯している面は改善の余地があるとのことであった。一方、「戦国末期から江戸初期に於いて日本史と世界史の接点で描く」という視点が新鮮であったとのことであった。
筆者は、10数年ぶり・・入江加奈子バージョンの「ミス・サイゴン」以来・・に市村氏の出演劇を見て大いに楽しんだ。 氏の活躍は、続編が決まった「テルマエ・ロマエ」など映画でも縦横無尽に活躍しているのでご存じの向きも多いだろう。篠原涼子と結婚するなど、彼にとっては公私共に充実した時期ではないかと推察する。
今年は、1613年にイギリスの東インド会社が長崎・平戸に商館を開いてから400周年にあたり、各種行事が開催される。そのタイミングに合わせた日本での再演・イギリス初公演ということだ(2009年初演でDVDも発売済)。
スペイン・イギリス・オランダ・日本の国際的立ち位置と国内でのそれぞれの協力関係も比較的公平に描かれており、史実を細かく知らなくても大略は理解できる演出でもあった。三浦按針の漂着後、イギリスから通商交渉に来た鼻もちならない連中のデタラメさ加減に按針があきれ果てる辺りのリアリズムに徹した演出は判りやすい。古今東西、大枚そうであったのだろうと想像に難くない。
イギリスやオランダとて、国家レベルでは日本に敬意・好意を寄せた訳でなく、交易あるいは、スペインやポルトガルの国力を削ぐという文脈で徳川サイドに接近してきた事も事実であろう。
按針を神聖視している演出でもなかった。イギリスに妻子有る身で、ちゃっかり日本でも結婚(=キリスト教で許されない筈の重婚)してしまう按針の罪深さと苦悩にも劇は触れていた。一見ユーモラスに描きながらも冷ややかな視線を浴びせるのが、イギリス流かなとも感じる演出だ。
物語は、徳川家康と三浦按針の最後の友情を描き、家康没後のキリスト教への厳しい弾圧を暗示して終わる。
観劇後、スペインとその潜在的協力者を根絶したがゆえに日本は植民地にならずに済んだ、という事に想いを馳せた。純真な気持ちで入信し散った殉教者には申し訳ないが、スペイン・ポルトガルの勢力を拡大させていれば、危うくインカ帝国になる所であった。多数を救った徳川幕府の功績は大きい。
スペイン、ポルトガルは、他人から略奪した資産を大部分、蕩尽した。その遺産で幾つかの優れた美術・建築が残されたのもまた事実であるが。享楽体質が抜けきれないのか、ドイツや厳しい自己改革を進めた旧東側諸国の幾つかの国からは「ギリシャ同様、政治・経済的なEUのガン細胞」と見なされている。
文明破壊者の末裔として、過去を自覚・反省していないのは、スペインで発行されていた最後の1000ペセタ紙幣に、コルテスやピサロの肖像画を使ってみたり、生誕地に今も彼らの銅像が出生地にあることで明らかである。 自分にはスペイン人の知人もおり、スペインワインも嫌いでは無いから、心情的にはこういった事を強くは言いたくない。無論、一人ひとりのスペイン人には罪がないが、歴史・対外経済へのインパクト等に対して、何も自覚なきまま時が過ぎれば「巨大文明の破壊民族の末裔たち」「欧州の二等市民」とEU内外で認識されるのもやむをえまい。
より大局に立てば、まさしく「原罪」であろうが、カトリック流に言えば改宗させた訳だから「善行」かもしれない(ゆえに反省も無い)。「文明破壊」はナチスのホロコーストと同様の話であるがゆえに、ペルー政府は今でもこういった銅像に対して不快の念を隠していない。もっとも生贄が大量に必要だった南米の諸文明が、他文明にとって受容可能かどうかは判断しかねるが。
スペインやポルトガルに比して、イギリスはよりしたたかである。「文明を積極的に破壊する事まではしないが、統治上、都合の悪いシステムは捨てさせる。植民地には余計な投資もせず既存のインフラやシステムを極力活用し搾取する」というのが植民地経営の基本スタンスである。 イギリス国内では平均的な食べ物が極度に不味かったり、バスの中でもメインストリートでも平気でゴミを路上に捨てたりする事を誰も咎めない。 移民社会イギリスでは、文化差に起因するであろう社会的課題は「教育・改善しようとしても無駄」と割り切っている。 植民地経営の伝統は現在のイギリス行政のさえなさ加減に通じるものがある。 「エネルギー補給の餌」という認識で作っているとしか思えない食物が堂々と高値で売られている事に関しては、個人的にはどうしても同意できないが、これも人民に対する搾取かもしれない(笑)。
ともかくも、徳川幕府は、イギリスと敵対するオランダのアドバイスも有り、イギリスとも断交した。その結果、アヘンに苦しみ強硬策に出たが実力が伴わず敗北した清帝国のような形にもならずに、日本は諸外国に対抗しうる内部蓄積を図ることが出来たともいえよう。
オランダは布教せず貿易利益追求に専心したため、依然として情報収集の必要性を認識していた徳川幕府との利害が一致し国交継続した事はご案内の通り。その意味ではスペインからの独立を果たすも、イギリスやフランスに比して劣勢に立たされたオランダにとっては日本は安価に銀や伊万里焼の様な工芸品を調達できる有益な交易相手であったのであろう。江戸時代までの対日関係では、オランダが一番したたかであったといえようか。幸いにオランダからはアヘンの目立った流入は無かった。
現在、中国大陸ではアヘンや麻薬という薬物犯罪に対して貴賎・国籍の例外なく死刑を中心とした厳罰になるのはこういった歴史的背景を踏まえている。中国国内のロジックから言えば、過去決定的敗北を喫した原因については、同じ轍は踏まないように強硬策にでざるを得ないということであろう。国家と個人に信頼関係が起きえない社会構造であるがゆえ、力で抑えつけないと勝手な事を行う輩(国家の論理から見ての話だが)が輩出されるという負の循環に陥っている。
他の事象でも平和的献策がいつのまにか強硬策を転換する事も多く、その結果が将来、彼の国の内部矛盾を激化させることにつながる可能性は高い。豊かな沿岸部は自分たちの利益を内陸に使う事をよしとしないであろうし、内陸部は自分達が革命を支えたはずなのに貧しいままで裏切られ続けているという思いを持っていると推測することも可能だ。
他の事象でも平和的献策がいつのまにか強硬策を転換する事も多く、その結果が将来、彼の国の内部矛盾を激化させることにつながる可能性は高い。豊かな沿岸部は自分たちの利益を内陸に使う事をよしとしないであろうし、内陸部は自分達が革命を支えたはずなのに貧しいままで裏切られ続けているという思いを持っていると推測することも可能だ。
ソビエトやユーゴスラビアとは事情は異なるが、ばらばらの歴史を背負った地域と政府への信頼関係がない国家に於いて、かっての史実や武力やカリスマを主体に永遠に結合・統治できるとは考えにくい。中国大陸や朝鮮半島における、分裂・内戦による混乱のとばっちりは日本にも及ぶ事は明らかなので、その点についても頭の片隅に入れて、長期スパンでは日本国内の治安対策を考えておく必要はある。
いずれにせよ、負の歴史の教えるところはありていに言えば「人の道にもとる極端な事ばかりを行ってはお後が宜しくない」というシンプルな教訓である。バランスを取りながら、よき方向のスパイラルに一歩一歩歩んでいくスタンスを忘れないというのが、「烙印を押され続ける民族や決定的敗者にならない知恵」であるように思える。
スペインやインカ帝国にならぬように精進せねばなるまい。滅ぼしても滅ぼされても良い結果にならない。
また、江戸初期のバランス感覚に基づく外交決断やその後の情報収集政策等も大いに研究する余地がある。その意味で「日本史」「世界史」と分断して考えるのではなく、「世界の中の日本」「各国の国益追求の実態」というリアリズムに基づいた視点を忘れないことも重要だ。
観劇前に食した日本居酒屋「灯」は中々、美味であった。地図を忘れてしまい道を間違えて、レストランに着くのが遅くなってしまったが、予約なしでも奇跡的に入ることが出来た。食べているそばからどんどん皿やグラスを下げる辺りの給仕のせわしなさには感心しなかったが、日本の生ビールに合うつまみが充実しており、マグロ納豆まであり、コメの炊き方を含め食べ物のレベルは高い。日本人スタッフもおり、繁盛しているようだ。 大通りの角地にあるので地図を持っていけば迷わないだろう。
歴史だけでなく、食べ物関係の情報収集・判断も手を抜くことのなきよう精進したい。
Akari(灯) (★★★★☆) ※他店の評価はこちら
196 Essex Road London N1 8LZ
TEL: 020 7226 9943
http://www.akarilondon.co.uk
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TEL: 020 7226 9943
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1 件のコメント:
ちょっと古いみたいですけど、市村正親さんの記事が出てますね・・私も見たかったなぁ
http://www.news-digest.co.uk/news/features/9983-masachika-ichimura-interview.html
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