2012年12月13日木曜日

霧の中のスターリン(orカーネルサンダース)

      今回はBirkbeckにおける実際の授業(モジュール)について書いてみる。
      Birkbeckは、元々の目的が社会人教育であったため夜間授業が多い。よって、コースにもよるが年齢層が高めだ。そういった意味で落ち着いて勉強に打ち込めるともいえる。勿論、大学を卒業後すぐに進学した生徒もいれば、生涯学習の一環で来ていると思われる社会人もいる。心理学を勉強した後、スターリンやヒトラーに関心を持って歴史のMA(修士)に来た人もいる。年齢・性別にバラエティがあるのは双方にとって刺激的だ。
今回の「スターリン時代のソビエトの市民生活」に関するモジュール(約2ヶ月間)は80%以上がネイティブ。有色人種はインド系のおじさんとトルコ人のお姉さんと筆者だけだった(女性は後半に消えてしまった)。
       冷戦下の東側諸国・ソ連に関する歴史研究は、冷戦終結とともに共産主義時代の内部資料入手が容易になり、個人の意思表明も可能になった。研究対象として充実してきた領域の様だ。
       入学前(8月末時点)には既に、全回分のトピックタイトルと検討課題、毎回のセットリーディング(A4で80ページ分位:読了前提として授業進行)、さらに推薦リスト(数冊の本ないし論文雑誌の記事)が提示されていた。2時間の授業は、まず教授によるセットリーディング関連のトピックの要点・論点整理、後半に推薦リスト等に基づいた学生のプレゼン、その後、質疑応答と言う構成で進行した。
   白熱した議論(話すスピードが速くなるか、発言がやたらに長くなる)には中々加われないので、最初に質問することやプレゼンをこなす事で、授業への関与を示す戦術を取った。
    筆者は「スターリン統治下のソ連で反乱・ストライキ・蜂起」をプレゼンテーマとして取り上げた(9月時点では「本当に史実か」と疑っていたが)。1932年にモスクワから230㎞位の都市で、7千人以上が参加した1週間にわたる工場ストライキ・隣の町(20km)までの数千人規模の抗議行進があり、しかも誰一人処刑されず最大3年の入牢・国内流刑で済んだという事実*をベースに行ったのだがその後の大粛清等に比して何とも牧歌的である。
読了した論文では(1)ロシア革命に貢献した労働者が多く住む工業都市で発生した (2)党に所属していない労働者が自主的に組織した(3)行動の背景にあるのは党が行った政策への反発であって反ソビエト(=反革命)では無いという3点を強調していた(論文の著者が鎮圧しづらい点を仄めかしているとも解釈できる)。
プレゼンを終えるに当たり、スターリンがまだ権力を掌握しきっていなかった時期であったからこそ抗議活動が出来た事と、工場・地域にある党支部側の初動の遅さに謎が残る2点を指摘した。 幸い(?)にして答えに窮するような質問も無くプレゼンを乗り切ったが、優先順位や論点を簡潔に纏める良い練習になったと感じた。
   タフで厄介な、そして卑怯な手を厭わない指導者が第二次世界大戦においてソビエトを勝利に導いた事は疑いない(その後の停滞も同じ理由だが)とこの授業を通じて認識を新たにした。 ロシアの歴史を垣間見るにつけ「力こそ正義」「勝てば官軍」「結果オーライ」というメンタリティを大衆が共有しており、西欧やアメリカ、日本が共有している民主主義的な価値観とは明らかな違いを感じる。
   ご存じの向きもあると思うが、スターリン自体はロシア人でなくグルジア人ではあるが、ソビエトでは共産主義を信奉する事を優先していたから、日本人からするとやや違和感のある現象が起こったともいえる。この男の事を知っておくのは、ロシアという隣人を持つ日本としても有益な事であろう。今でも、モスクワの博物館では「ナポレオンとヒトラー」という独裁者と人民の闘い、といった路線で展示されている。さすがにスターリンの銅像は余り置かれていないが・・・
   








   いずれにせよ、学術的には、霧の中のスターリン時代は徐々に暴かれていくだろう。依然として、彼の意思決定には不可解な点が多いのだが・・・


   スターリンの銅像といえば、9月に朝霧のブラチスラバ(スロバキア)でみたのを思い出す。レストランの入り口の目印として、いわばカーネルサンダースのような扱いを受けていた。
国家指導者から「客寄せパンダ」への転向に何か物悲しいものを感じる。
 
 最近、濃霧でヒースロー空港発着便に遅延が出たとBBCで言っておりましたが、ラッキーな事に筆者の部屋には、朝日がさんさんと降り注ぎます。まさしく「朝日のあたる家」・・♪

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(2012/12/12記)
* Jeffrey Rossman, ‘The Teikovo Cotton Workers’ Strike of Aril 1932: Class, Gender and Identity Politics in Stalin’s Russia’, Russian Review 56:1 (Jan. 1997), 44-69

3 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

やはり、KFCでなくKGBのフライドチキンもあるようです。

http://ja.uncyclopedia.info/wiki/ヨシフ・スターリン

ベリア さんのコメント...

KFCはKGBからの天下り受入先との秘密文章が公開されたらしい(笑)

匿名 さんのコメント...

かつての大国ですから、売っているのは『プライド』チキンですかね。。。