2013年8月21日水曜日

サウンドオブミュージック(リージェントパークの屋外ミュージカル)

ハイドパーク屋外ミュージカル「サウンドオブミュージック」を観劇。

天真爛漫なおてんば娘と厳格(そうに見える)貴族との恋愛・結婚という

意外性、子供たちののびやかな演技、少女と青年のほのかな恋愛・・・

1938年のナチスドイツによるオーストリア併合(アンシュルス)、

という歴史的背景を絡めながら、大人も子供も楽しめるミュージカルや

映画であることはご案内の通りである。



子供の時、映画を見て「なんで内陸国のオーストリアなのに主役が海軍軍人なの?」

という素朴な疑問が、実は今の修士論文につながっている。

日没前の開演時はこんな感じ

アドリア海のリゾートで注目されている、クロアチアの海岸沿いは

第一次大戦が終わるまでは、オーストリア=ハンガリー二重帝国の領土だった。

クロアチアの港町プーラもゆかりの地


 現イタリアのトリエステを含め、幾つかの港は、二重帝国のものであり、

実在の人物である、主人公のトラップ男爵は、アドリア海の都市ザダルで生まれ育ち、

トリエステに移り住んだ後、潜水艦の艦長になった。

(ザダルの解説が有る『世界飛び地領土研究会』のサイトはお勧め)

第一次大戦後に領土を失い、彼ら一家もオーストリアに移り住んだ。 第一次大戦の

エースをナチスの海軍に引き込めば、国威高揚や戦力強化につながる、と

考え、徴募した、という背景があってこそ、このストーリーは生きてくる。

北イタリアの港町トリエステも、オーストリア=ハンガリーだった・・・


 家族で合唱団を作りヨーロッパ各地で好意的に受け取られたが、

友人の借金に起因する、一家破産が背景にあり、生活の為に一家で興行に出た、

という史実の側面もある。


 ハーケンクロイツが掲げられた併合後の「オストマルク」の劇場で

郷土愛に満ちた主人公が「エーデルワイス」を歌う事で、

ナチスに加担しないと言う決意を静かに知らしめる演出は優れたものであろう。

サルツブルグの劇場でのワンシーン(出典



大戦中にアメリカに逃げ延びた事で、「反ナチ」という政治的な

思惑も有って、彼らの興行が受け入れられた素地も有ると思われるが、

故国オーストリアでは、複雑な受け止め方をされただろう。


 オーストリア併合に、多くのオーストリア人が賛同した事もまた事実であり、

元大統領で国連総長まで務めたワルトハイムのように、戦時中ナチに

積極的に加担した人々もいたこともあり、この時代について国内で議論するのは

一種のタブーでもあるようだ。

 
 華やかなハプスブルグ時代と、その後の苦い記憶がオーストリアの

側面でもある。





このミュージカルは軽妙な音楽とその背景にある歴史の描写、

バランスが取れている。 英語も判り易く、お勧め。

日没後は寒いので、羽織れる物やスカーフなどが有るといいだろう。

エンターテイメントをきっかけに、様々な歴史を知るきっかけになれば、

いいのではないか、と秋の気配を感じながら思う。

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(2013/08/20記)

1 件のコメント:

Erich1970(エリック藤牧) さんのコメント...

サウンドトラックも聴きごたえが有る。

次々に消費していくアメリカ・アジア的感覚と異なり、
いいものを長く味わえる。映画黄金時代の
最後の輝きなのだろうか・・・

http://www.youtube.com/watch?v=Ep5nIj-ZB8I